戸河内刳物について
- 松井智哉
- 2021年2月15日
- 読了時間: 4分
更新日:2021年2月26日
戸河内刳物とは
戸河内刳物は広島県山県郡安芸太田町を中心に生産された木を彫ってできる木工品のことである。主に杓子を生産しており、その杓子は木製のため、使用すると鍋に入れても沈まずに浮かび上がってくることから、浮上お玉と名付けられ、幸せに向かって浮上する縁起物として愛用されている。

歴史について

戸河内刳物は宮島細工を起源に持ち、藤屋大助が創始したと伝えられている。江戸時代に宮島細工を製作するために各地から木材が供給されていた。そこで戸河内の木材の質に注目した福田李吉は戸河内町に移住し、4人の弟子を取り技術を伝えた。大正の後半から昭和の初期にかけて最も盛んに生産され、一時は職人が 60 人程いたが、昭和 30 年代から金杓子やプラスチックの杓子に押され次第に需要が低下し、組合は自然消滅し、廃業や転業が相次いだ。このころから職人が自ら作品を売るようになっていっ
た。
横畠文夫さんは数々の百貨店に出展し、全国各地で実演販売を行った。その結果、平成 3(1991)年 4 月8 日に広島県指定伝統的工芸品に認定された。さらに翌年には全国推奨観光土産品審査会において通商産業大臣賞を受賞されている。
材料について
戸河内刳物に使用される木材は桜や栗、桑、欅、槐、朴などがある。各木材からできる製品とその木材の特徴を表にまとめた。(表 1)
木材は 10 月頃に伐採を行い、丸太の状態で屋外でブルーシートを被せて乾燥させる。その後ある程度成形したものを今度は室内で乾燥させる。乾燥にはおよそ 3 か月かける。
制作過程
製造工程は全 12 種 16 工程に分かれる。
動画: http://www.yokohata-craft.com/html/history.html#process (横畠工芸ホームページより)
1. 玉切り:丸太を製品の長さに切断する。
2. 皮取り:割鉈を使って丸太の皮を剥ぐ。
3. 落とし:丸太から木辺を割る。
4. 巾よせ:割鉈で柄の部分を切り取る。
5. 荒木打ち:打鉈で製品の大まかな形を作る。
6. 手斧打ち:打鉈で杓子の形を整える。
7. たたき:叩き鑿で内側を削り取る。
8. 平刳り:平鑿で内側を整える。
9. 柳刃かけ:柳刃で内側を仕上げる。
10. 背落とし:打鉈で外側の不要な部分を取り除く。
11. 荒鉋かけ:荒鉋で外側部分を整える。
12. センつき:センで顔の部分を整える。
13. 仕上げ鉋かけ:外側を仕上げ鉋で仕上げる。
14. 柄首つけ:小刀で柄の首の部分を削り取る。
15. 柄こぎ:柄こぎ鉈で柄の部分を細くする。
16. 柄尻まわし:柄の尻を加工する。
写真3(左)丸太から浮上お玉 1 つ分の木材に割っていく
写真4(中)鉈や小刀を使って杓子の大まかな形を作る
写真5(右)鑿を使って内側を刳り出していく
写真6(左)槍鉋を使って内側を削り出していく
写真7(中)鉋を使って外側の形を整えていく
写真8(右)小刀を使って柄の首の部分を削っていく
戸河内刳物の現在
現在、戸河内刳物を生産している工房は横畠工芸さん1軒(4 名)のみとなっている。
工房:有限会社 安芸の木杓子 横畠工芸
住所:〒731-3843 広島県山県郡安芸太田町大字吉和郷 335
横畠工芸では杓子の他にも、箸、スプーン、フォーク、茶托、サラダボウル、丼ぶり、小皿、お櫃、花器、盛り鉢、急須、湯飲みなども製作している。(写真は横畠工芸ホームページより)




また、使用する工具の種類が多いことも特徴である。工具は鉈、鉋、ノミ、小刀、センなどがある。その中で鉈や鉋、ノミには数多くの種類があり、用途別に使い分けられている。それらの工具は昔から新潟や兵庫の業者に依頼して取り寄せていた。ところが五年前に工房が焼失してしまい、先代からの工具がほぼ全て駄目になってしまった。そんな中、全国各地の工房から鉋や鉈などが送られてきて、製作を再開することができた。今では工房の壁一面に工具が揃えられている。


横畠工芸には現在、横畠文夫さんを始め、奥様の横畠みづほさん、息子の横畠祐希さん、沖野秀則さんの 4 名が職人としていらっしゃる。後継者という点に関しても 4 名とは別に若い弟子が 2 人いらっしゃる。
生産状況について、横畠文夫さんは多いときには一日に 50 本程度製作されていたらしいが、現在では一日に 10 本程度しか製作されていない。
まとめ
戸河内刳物の技術を残すために横畠工芸では刳物の体験教室を開催している。またかつて横畠文夫さんが行っていた実演販売は、現在は横畠祐希さんが引き継ぎ、全国各地の百貨店で実演販売を行っている。こうした活動を通じて戸河内刳物の魅力が全国に伝わっていくことを願っている。

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